モノリススフィア 最速伝説 |
21戦目、敗北 36戦目、2位になるも敗北には変らず : (中 略) : 99戦目、月の女神をやめたくなってきた。 追記 フェニ子が黄色い声をあげっぱなしだった。 やつは鳥類にのみ効くフェロモンでも発しているのだろうか ――――――――――――――――月の女神の裏日記より。 モノリススフィア 最速伝説@100度目の正直 「な、なんで勝てないですかモノリス様」 草原で私は主に言った。 「……あのニワトリが早すぎるのですわ」 ついさっきゴールラップを切り損ねて2位に甘んじた主である月の女神がそれに返した。 女神プランティアが統括する緑の世界。 平和がモットウのこの世界ではさほどの脅威は存在しない。 主な住人のニワトリも平和ボケしてそうなほど、まったりしているのが何よりの証拠だ。 しかし、中にはまったりしていないやつもいた。 今そいつが、月の女神モノリスの最大の敵として立ちふさがっているのだ。 立ちふさがる敵の名を――――コケリアンという。 「だいたいモノリス様がいっつもショートカットだとかいってコースからはみ出るのがいけないんですよ」 レースが終わった後の作戦会議で私ことムーンは口を尖らせて主に進言しました。 主は主で不服があるのか脹れながら抗議の声を返してきます。 「だって、あそこは二回減速をするだけでコースをより短く走れますよの」 私の主人であるモノリス様は宙に浮きつつ苛立ちの色をあらわにしていました。 負けたストレスはたまっているせいか、時々モノリスグラビティの能力が漏れているのが少し怖いですよ……。 そのことは何度か注意をしようと思いましたが、重力波体当たりをくらうのは嫌なので今のところ見なかったことにしましょう。 重力を使いこなるモノリス様は知らないでしょうが、月面以外の重力がしっかりしたところでの体当たりは想像以上の威力を持っているんですよこれが。 一度、腰に食らったときは胴体がありえない方向に真っ二つになるんじゃないかと思いましたね……あれは四足歩行系の動物にはやってはいけない。 「いいですか、あのニワトリめを抜くにはその二回が致命的なんですよ」 とりあえず聞いていくれているかどうかわかりませんが、私は話を進めることにしました。 話を進めないと同じことの繰り返しが起こるのはわかっていますし、100回もニワトリに負けたとなると月の女神としての面子がつぶれたとかおっしゃられてこっちにばっちりが飛んできそうですし……。 「これを見てください」 私は「ベンッ」と以前から用意していた記録用紙をモノリス様に差し出しました。 かねてか見せようと用意した紙には私が根性を入れて書いた一本の青い丸とぐちゃぐちゃになった赤い丸が描かれています。 「何ですの?」 意図をつかみかねているモノリス様は紙をペラペラさせながら私にたずねてきました。 私は簡単に答えることにしました。 「あなた様とコケリアン様のコース取りです」 「―――――」 あ、笑顔で凍った。 「……こ、こんなに違うものですの」 「はい……大変遺憾ながら」 引きつり笑みを浮かべながらモノリス様は悩んでいるようです。 さすがにこれでちょっとやそっとの小細工じゃ勝てないことがわかってもらえたでしょう。 うん、私はいい従者だ。 私が一人自分の意見に納得しているとモノリス様は「決めた!」と何かひらめいたようにつぶやきました。 モノリス様がなにを考えているか見当は尽きませんが、何だか嫌な予感はします。 しかし主が話したいというのなら話を効くのも従者の役目、ならばと私はモノリス様を促すことにしました。 「モノリス様、何が決まったのですか?」 「決めましたわ!―――次の勝負、負けたらあのニワトリと結婚します!」 「な……―――――!」 イマ、ナンツッタ、コノ女神。 凍りつきました。主に私が。 こう主が相手なので言っていいことと悪いこととありまうが、思いっきり言ってやりたい衝動に駆られました。 「ど、どういうつもりですか!」 背筋にどっと汗を流しながら私はモノリス様にやっとの思いで返しかえしました。 もし本気ならば月の世界と緑の世界をまたにかけた国際問題、いや世界問題に発展しかねません、つうかやめてー。 「あら、古来よりある国ではこういうことわざがあるんですよ、背水の陣といいましてね――――」 「わざわざ窮地に追い詰めないでーー!」 私は思いっきり叫びました。 やめてください、まじで。 けれどもモノリス様はそんな私の心からの叫びに動じる雰囲気すら見せず「話を止めてはいけませんわよ」とやんわりと私をたしなめてきました。 月の世界の今後は不安一色のようです、とほほ。 「いや、ですが……」 「いいですか、人間追い詰められれば普段の10倍の出力が出るのですよ」 あなたは人間じゃなくて女神でしょう、モノリス様……。 突っ込みたいですが、ぐっとこらえておきます。 「もし負けたらどうするのですか!」 モノリス様は「んー」ときれいな造形の顔を少しだけしかめたのち、笑顔で返してきました。 「畜生の嫁ということになりますね」 「月の女神がそんなんってやめてくださいよーーー!」 あ、あご外れそう。 「冗談ですよ、10倍の出力を得た私が負けると思いますか?」 すでに背水の陣の効果を信じきってしまっているモノリス様。 だ、誰か冗談だといってください。 「も、モノリス様、やっぱやめましょうよ。いくらなんでも結婚なんて……」 「キャストオ〜フ〜」 あ、あの女神飛んで逃げた。 って違うあの方角はレース会場! もう挑む気なんですか! 「モノリス様〜! 早まらないでーーー!」 私の叫びがむなしく空に消えていきました。 to be next 「ま、間に合わなかった……」 ムーンこと私が会場についたときにはすでにレースは始まっていました。 モノリスさまはやっぱり二位、やはりコケリアンさまに勝つのは無理なのか……。 つうか、あの引き離され方はやっぱりあの効果のないショートカット使ったんですか! 私の心配をよそにレースは進んでいきます。 モノリススフィア 最速伝説@100目の挑戦 「まずいことになりましたわ……」 十倍の出力を当てにしたワタクシが馬鹿でした。 そもそも二倍速ですら制御が難しい代物なのですから十倍になったところで暴走状態とさして変わらないのでしょうけど。 わたくしの視界の先には空を滑るように疾走する一羽の鶏、コケリアン! 「負けてられません。 こうなったら時の流れを変えます!」 先行するコケリアンが風を捕まえ上昇します。 瞬間、私は時間を操作して体感時間を減速させます。さらにモノリスグラビティ、宙を蹴るようにして上昇! 空気抵抗を髪で感じながら重力操作で体の状態を制御します。 見る間にコケリアンに接近、そのまま抜きにかかります。 「次の3連コーナーで……仕掛ける!」 一回目のコーナリング、ここは相手に合わせて引っ付きます。 コケリアンもここが勝負と見ているのかいつも以上にきれいな制空でターンを決めてゆきます 「さすが王者、勝負どころを見極めてきている!」 でも、わたくしも負けられませんことよ! わたくしは――――。 「女神だァァ!」 二回目のコーナリング、モノリスグラビティを効かせた直角ドリフト! 限りなくインに食い込み、つぎの瞬間、コケリアンとすれ違う。 この勝負もらった。 「いいや、まだだよ。」 「え……」 ワタクシが勝利を確信した瞬間、コケリアンはつぶやいてきました。 「君が三連コーナーで仕掛けてくるのはわかっていた、三連コーナーのこのタイミングで仕掛けてくることも」 最後のコーナーが迫ってきています。 「君のほうがインコースよりである二番目、そこはあえて譲ることにした」 「そんな馬鹿な、ならばなぜ―――――はっ!」 そこまで言葉にしてわたくしは理解しました。 コケリアンと自らのコース上での位置。 二番目のコーナーで勝負を仕掛けたわたくしは積極的にインをとろうと極端にコースの端に寄ってしまっている。 この位置は、最後コーナーから見てアウトコース。 そしてコケリアンの位置は限りなくインコース寄り! 「そう、この瞬間を待っていた! 最高速だけが勝負じゃないことを見せてやる」 瞬間、まるで刃物のように鋭い起動を描いてコケリアンは追走していきます。 速い、この程度のリードじゃすぐに抜かれる! 「ま、まだ、負けません!」 モノリスグラビティも使ってしまったわたくしに彼に対抗する手段はありません。 それでも可能な限りの重力操作を生かしてコーナーを最速で突き抜けます。 「だめだよ。その位置からじゃ抜いてくれといっているようなもんさ」 しかしわたくしの努力など涼風のごとく無に返し、コケリアンは私を抜き去ってしまいました。 サーッと血の気が引いていきます。 こ、これでわたくし、畜生の嫁に……。 このままでは月の世界の歴史上最大の珍事として後世末代まで伝えられてしまう。 それだけは、それだけは……。 「避けないと、いけませんのよ!」 本当は使いたくなかったのですがやるしかない……! 「クロノス・ドライブ!」 月の住人よわたくしに力を! 瞬間、時間がぶれます。 すべての感覚が引き伸ばされ、わたくしだけが自由に動ける世界! 「これが、ラストスパート!」 時間の差で発生する陰を作りながらわたくしは突き抜けます。 コケリアンまであと少し! 「まさか、まだそんな切り札があったなんてね」 ほぼ真横のに並んだコケリアンからそのような言葉が聞き取れます。 「勝負はまだついていませんのよ」 「そうみたいだ、だけど」 最後のコーナーが迫ってきます。 現在は若干コケリアンがリード、しかもコース取りは完璧でインをきれいに確保しています。 定石どおりの王者の走り、けれどもわたくしはだって負けていられません。 「勝負ですわ!」「勝負だ!」 最後の最後までほぼ完璧なコーナリングを見せ付けてくるコケリアン! わたくしはチャージの終わったモノリスグラビティを開放! 直角ドリフトで勝負! 「「いっけぇぇぇ!」」 共に最速、共にベストコーナーリング! だけれどもコーナリングはイーブンならば、最後の直線わたくしがもらっていきますわ! 「させない!」 私の進路上に割ってはいるコケリアン。 しかし残念。 「それは残像でしてよ」 そう、それはクロノス・ドライブの影響で発生したわたくしの影。 わたくし自身はコケリアンのわずか下を抜け、最後の重力加速を使う。 そして―――――。 「ゴール! 優勝は月の女神モノリスだーッ!」 かくして、わたくしは栄光とプライドと緑の世界最後のモノリススフリアを手にしたのでした。 ちゃんちゃん。まる End |
鏡読み
2008/04/22(火) 02:24:35 公開 ■この作品の著作権は鏡読みさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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もげ様 感想ありがとうございます。 ようやくこの間モノリススフィアでコケリアンを負かし、一応の全クリを果たした鏡読みです。 ……まさか本当にクロノスブースターで残像が起こるとは思いませんでした。 な、なんというか、褒められすぎててちょっぴり怖いです。(苦笑) 最初はムーン視点で全部やってしまおうと思っていたんですが、レース時になって女神視点のほうが書きやすいな、っとちょいちょい書いていて思ったのでこういう視点が変わる手法にしてみました。 突然変わるとへんなので間にタイトルを挟んでいるのはそのためです。 ……まあ、失敗したか成功したかは読み手の人に任せる方向で。 あ、見習わなくて大丈夫です。 それでは感想ありがとうございました。 |
Name: 鏡読み | ||||
■2008-05-08 06:38 | |||||
ID : em0xNPlHJvA | |||||
コケリアン様の空気制動力の高さはマジ半端ねぇ……!!(何 レースでは未だに二位を脱却できないまま燻っているもげです。こんにちは。 待ちに待っていた鏡読みさんの新作! 思っていたよりもずっと早く見ることができて、本当に大満足です。お疲れさまと心の底から叫びたいほどに。 月の女神様の執念、アタマ悪さ、その向こうに垣間見える《最速》へのあくなき挑戦の物語……実に感服致しました。 前半はムーン視点からモノリス様の性格というか生態を的確に描写し、突飛な提案「背水の陣」から視点を移すとともに描写にスピード感を持たせる、この手法は読者の感性を思うさま刺激してくださいました。いやもう、見習いたい。 特にレース時の疾走感溢れる描写のタッチに至っては、読みながら脳内でヘビメタ系の音楽がどんどん流れるような感覚さえありました。(よくわからない あと、特別にネタを提供したわけではないので、そんな風にお礼を言われてもてれちゃいますよぅ。 ……それでは駄文ですがこれにて。もげでした。 |
Name: もげ | ||||
■2008-04-22 17:25 | |||||
ID : NZOnp0ycUpg |