流れ星に願う |
「スイ様は、星はお好きですか?」 目の前の、淡い水色髪の女が尋ねてくる。 俺のトーテム、スケイル。 今は彼女自身の願いと旧魔王の力によってその姿を人に変えている。 「あのぉ…。スイ様?」 「ぁっ!?」 俺としたことが、ボーっとしていた。 「ひどいです、スイ様。話聞いてください!」 「わ、悪かったスケイル。…で、なんだ?」 「だから、スイ様は星がお好きですか?」 ああ…。 それに、地面に寝転がり、空を見てみる。俺につられてか、スケイルも地面に座る。 星…。 星が輝いている。 空に、満天の星が輝いているんだ。 「晴れてるな…。明日もきっと晴れてくれるだろう。」 「…?そ、そうですね。」 空。星。星。星。 実はというと、俺は星は嫌いだ。 どうも…。星を見ていると、『意識の海』を思い出す。 そこには、なにもない。 俺はただ浮いていた。 見えるのは、闇と、光る光球。 その光球が意識の海を思い出させるんだ! あそこには誰もいない。 あそこにはなにもない。 俺すら居ないんだ。 ただ、毎日そこにいるんだ。 いつしか時を忘れた。 いつしか黒と白以外の色を忘れた。 いつしか、自分も忘れそうだ。 それが怖くて…。 意識の海は嫌いだった。 「スーイーさーまー!」 「あ?」 「あ?…じゃないです!私の質問、お答えください。」 「あ、ああ…。」 正直言うと、嫌いだ。 しかしそれを言えば間違いなく眼前のトーテムは機嫌を損ねるだろう。 「…ん、好き、だな。」 「やっぱり!」 「…でも、森も、川も、大地も好きだな…。」 「ええ。スイ様もロマンをわかってるんですね。」 しばらく空を眺め。 「…大分時間を消費し…。」 「あ!」 そろそろ旅を再開しようか、とした時。 スケイルが笑って空を指した。 「スイ様!流れ星です!」 「流れ星?」 「遅いですよ。…もう、行っちゃいました。」 「そうか…。」 空を眺める。しかし、流れ星など珍しく、全然流れない。 「…スイ様。流れ星に願いをかけると願いが叶うそうですよ。」 「スケイルはかけたのか?」 「え…。」 聞くと、少し困ったように苦笑し、 「慌てて、かけられませんでした。」 答えた。 「…。」 「…。」 二人して空を凝視する。 「…あ、流れた…。」 「えぇっ!?どこ、どこです?」 「もう行ったよ。さ、行こうか。」 「あ、その前に…。」 スケイルが、マントついた木の葉を落とす俺を、呼び止める。 「ん?」 「スイ様は、なにを願いましたか?」 …それに。 「ああ、残念ながらスケイルと同じ。慌てて何も浮かばなかったよ。」 笑った。 「そうですか…。」 残念そうに起き上げると、 「まぁまだ見える可能性はありますよね。いきましょう、スイ様。」 「ああ。」 流れ星、流れ星。 神様に願いを届けてくれ。 神様神様、リクレール。 俺の願いを聞いてくれ。 俺を存在させてくれ。 俺を消さないでくれ。 |
ブルーレイン
2007/08/03(金) 19:54:47 公開 ■この作品の著作権はブルーレインさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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