狐狩ヨウコの休日 前編 |
「あっつぅ……」 初夏の太陽が恨めしい程に熱く輝く真昼の屋外。 そんなに張り切ってギラギラせずに少しは太陽も休めばいいのにと 我ながら無茶な要求を心の中で吐きつつ、流れる汗を袖で拭いながら私は足を進めた。 私の名前は狐狩妖子。 漢字で名前を書くと怖いとよく言われるので、気持ち的にはカタカナで『ヨウコ』と呼んで欲しい。 『ヨーコ』ではなく『ヨウコ』なのがポイント、『YO』ではなく『YOU』、『ユー』じゃなくて『ヨウ』。 ……ややこしいかな? まあ、中には何度指摘しても無視して『ヨーコ』と呼ぶ馬鹿も知人に一人いるのだが…… それは今回は置いておこう。 話が逸れたが改めて、私の名前は狐狩ヨウコ。 アクアフロートの治安を守るべく日々戦い続けている(エリート)女刑事だ。 そんな私が今、どうして平日の昼間っから私服姿で街をぶらついているのかと言うと どうも最近働き過ぎていた為か、急に有休を取る事になってしまったからである。 まあ、確かにここ最近はバタバタしていたので休みが貰えるのは有難い事なんだろうけども。 「……とは言っても」 普段仕事一筋で生活していた為か、せっかく休みを貰っても得にする事が思いつかず。 結局こうして当ても無くふらふらと街をさ迷い続けているのが今現在の状態であり。 これだと普段のパトロールとまったくもって変わらないというか、休みの意味があるのかどうか…… 「まあ、あのオッさんがいないだけマシか」 ちなみにこの同時刻、某御大警部がくしゃみをしていたそうだけど それはまったく関係のない話であり、私の知った事ではない。 それからしばらくショッピング街を見て回ったりもしたけど 私は特にファッションにこだわりがあるわけでもなく、無駄に派手なアクセサリーにも興味は無い。 ちなみに今着ている私服も処分品で安く手に入ったYシャツと古着のジーンズという まったくもって色気も何も無い格好だけど……別に不満は無いから構わない。 周りの連中からはもっと女らしくした方がいいと言われる事も多いけど それは大きなお世話だと言いたい、思いっきり声を大にして言いたい アクアフロートの中心で何かを叫びたい。 「あ〜あ……退屈」 結局その後もふらふらと適当に歩き回っていたが特に何も興味を惹くようなものは見つからず。 いっそのことこのまま帰って寝ようかと思ったその時。 私はふと、ある店の前で足を止めた。 「……ゲーセンか」 意外と思われるかもしれないが、ゲームは私の数少ない趣味の一つだったりする。 いい大人が平日の昼間からゲーセンで遊ぶっていうのも情けない絵の気がするけど…… でも休みの暇つぶしには丁度いいだろう。 そう自分に言い聞かせてから 私はゲームセンター『ナインスター』の自動ドアをくぐった。 店の中に入ると案の定人の声はまったく無く。 流れる有線のBGMと機械から聞こえてくるデモ画面の音だけがやかましく鳴り響いていた。 賑やかなのが逆になんだか空しさを演出している気がするのは私の気のせいだろうか…… まあ、流石にこんな昼間にこんな所でゲームをやってるような大人は私くらいだろう。 ……と思ったのだが、どうやらそうでもないらしい。 ゲームセンターの奥、それもかなり隅の方の目立たない場所にあるゲーム台。 そこで妙に真剣な顔をして画面を睨んでいる一人の私とほぼ同年齢と思われる女性。 よ〜く見れば、何とな〜く見覚えのあるポニーテールが首の動きに合わせてゆらゆらと揺れている。 「…………」 私は無言でその台の方にそっと近付いていった。 一応足音は忍ばせたのだが、どうやらそんなことをする必要は無かったらしく 真後ろに立ってもその女性は私に気付かず、相変わらず真剣にゲームに取り組んでいた。 なので、ぽんと肩に手を置いて声をかけてみる。 「いい大人が真昼間から熱心に何をやってるの?」 「ひゃぁっ!?」 おお、いい反応だこと。 「…………よ、ヨウコ?」 「は〜い、ヨウコさんですよぉ〜、シイナちゃ〜ん、元気〜?」 「え〜っと……」 わざとキャラじゃない喋り方をしてやると、案の定彼女は戸惑いを隠せずに困った顔でオロオロとしだした。 コレだからこの子をからかうのは面白い。 この妙に幼さを感じさせるポニーテールっ子は村上シイナ。 アクアフロートでの私の数少ない友人の一人だったりするんだけど。 大人しいと言うか内気と言うか小動物みたいと言うか何と言うか…… まあともかく。 なんだか見ていて危なっかしくてほっとけないと言うか、虐めたくなると言うか そんな子なのよねこの子は……私と年あんまり変わらない筈なんだけど。 「き、奇遇だね、こんな所で合うなんて」 「本当にね…………で、もう一度言うけどこんな平日の昼間に何をやってる訳?」 「えっと、それはその……最近働き過ぎてたから有休を取るように言われて…… でも、特にすることも思いつかなかったから……」 なんだかどこかで聞いたような台詞だなと思いつつ 私は彼女がさっきから懸命にプレイしているゲームの画面に目をやりながら わざとやや呆れた声を作り、ひと言呟いてみた。 「それでゲーセンで脱衣麻雀?」 「どっきーんっ!!」 何その思いも寄らぬリアクション。 「いや、違うんだよっ! 私は普通の麻雀ゲームかと思ってやったの!」 「ふーん」 「そしたらたまたま脱衣だっただけで……だからその……」←(カチカチカチカチッ) 「へぇ〜……」 Hボタンを連打しながら寝ボケたことをほざくお茶目なシイナちゃんであったとさ。 ――で、その後。 せっかくだから私はシイナの後ろに立ち、彼女が脱衣麻雀をプレイする様子をじーっと眺めた。 時々、真っ赤な顔になったり涙目になったりしながら ちらちらと私の方を振り返るシイナがなんだか面白かった。 途中、シイナがそろそろ負けそうだったので反対側の台から乱入して対戦してみた。 いきなり倍満決めたら涙目で「ひどいよー」と言われた。 対戦が終わった後、シイナの機嫌が悪くなっていたので 仕方なくクレーンゲームでぬいぐるみを取ってプレゼントしてあげたら急に上機嫌になった。 でも昼食は私の奢りらしい。 「まったく、これだから女ってのはめんどくさいのよね」 「私の記憶ではヨウコも女の子だった筈だけど……」 続く……かも? |
yasaka
2007/05/10(木) 22:01:21 公開 ■この作品の著作権はyasakaさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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ちょw、二次創作短編の主役コンビがさらにキャラ崩れてる。 しかし何だかんだでこの方々は気に入られてますねぇ。 テキストBBSで見かけるとは思いませんでしたが、なかなか味が出せてるかと思います。 短いですが、では。 |
Name: 春日眠(半透明) | ||||
■2007-05-11 00:14 | |||||
ID : XTTk.SWG5Zg |